2018年8月24日から公開されている映画「ちいさな英雄ーカニとタマゴと透明人間」を鑑賞してきました。
「ちいさな英雄」を制作したのは「メアリと魔女の花」のスタジオポノック。
スタジオポノックはかつてジブリに在籍していた米林宏昌の作品を世に出すために設立されたアニメ制作会社とのこと。
そんなスタジオジブリの後継とも評されるスタジオポノックが今回制作したのは3本の短編で構成されたオムニバス。
- 「カニーニとカニーノ」
- 「サムライエッグ」
- 「透明人間」
3本あわせても「54分」という短さ。
そのため料金も一般で1,400円、ムビチケで1,200円と、ふつうの作品よりも若干お安めの特別料金となっています。
別の映画作品の予告で「透明人間」が気になっていた私はあらかじめムビチケを購入して、公開翌日の25日に劇場に足を運びました。
というわけで、今回は「ちいさな英雄ーカニとタマゴと透明人間ー」の感想について書きますね。
【1本目】カニーニとカニーノ
「ちいさな英雄」の「カニ」にあたる1本目の作品は米林宏昌監督の「カニーニとカニーノ」。
どうやらサワガニを擬人化した、ある意味一番ジブリっぽい作品でした。
米林宏昌監督といえば「借りぐらしのアリエッティ」や「思い出のマーニー」が有名ですよね。
どちらの作品も鑑賞しましたが、とてもよかったです。
しかし、今回の「カニーニとカニーノ」に関して言えば、結論から申しますと、「全然おもしろくなかった」です。
キャラクター、設定、ストーリーがありきたりすぎる
一番ジブリっぽい作品ということで、キャラクターの作画はジブリならではの絵柄と作風となっています。
おそらく「カニーニとカニーノ」を一番期待して見に行った、という人も多かったんじゃないでしょうか?
正直なところ川面や魚のCG以外では、何一つ新鮮に感じる要素がありませんでした。
キャラクターの造形や性格もありきたりですし、設定もなにかの作品で見たような焼き直し感が強く、ストーリーはもはやいうまでもないかと。
これ、本当に作りたかった作品なのかな?と思ったくらいです。
意味あるのか?そのキャスティング
サワガニの兄妹・カニーニとカニーノの声のキャスティングは次のとおり。
カニーニ(兄)
- 木村文乃(女優)
カニーノ(妹)
- 鈴木梨央(子役・タレント)
どちらも本職の声優さんではありません。
それは別にいいんですけど、この「カニーニとカニーノ」という作品、無声映画というわけではないんですが、セリフらしいセリフはほとんどありません。
片言で名前を呼んだり、叫んだりする程度です。
ハイスコアガールの大野よりはしゃべるかな~というくらい。
エンドロールで名前を見て初めてキャストを知ったのですが、この配役、意味あんのかな?というのが正直な感想です。
どうせならまったく喋らない設定にしたほうが良かったような気がします。
手描きの背景もなんだか微妙、でも魚と川面のCGはよかった
キャラクター以外の手描きでの背景もなんだか微妙な感じがしました。
シーンによっては「背景」というよりは「取り込み画像?」といった印象を受けるようなところがあり(特に地上)、ずいぶんとシーンごとに背景にムラがあるな~と。
昔、劇場でみた「ゲド戦記」を思い出してしまいました。
しかし、CGで描写した魚と川面はとてもよかったです。
特に魚。
感情のない無機質な感じと、サワガニから見た巨大なサイズ感がよく出ていたと思います。
あ~そうか。
今回の「カニーニとカニーノ」はこの「魚」と「川面」のCGを作りたかっただけなのかも。
【2本目】サムライエッグ
「ちいさな英雄」の2本目は「タマゴ」にあたる「サムライエッグ」という作品です。
監督は百瀬義行。
百瀬義行監督で私が鑑賞したことがある作品は、「ギブリーズ episode2」。
映画「猫の恩返し」で本編上映前に放映された短編作品ですね。
独特のタッチと短編ならではのテンポの良さがとても面白かったです。
今回の「サムライエッグ」は重度の卵アレルギーを持つ野球少年と母親のお話です。
とくに事前にチェックすることもなく、あまり期待もしていなかったのですが、個人的にはとても見ごたえのある作品でした。
アレルギーって恐ろしい
運動神経がよく野球が好きな少年シュンは、生まれたときから重度の卵アレルギー。
口に含むだけでなく、卵の調理中に近づくのもダメ。(空気感染してしまう)
学校での給食ももちろん食べられないどころか、配膳中は教室外へと避難するほど。
配膳が終わって、みんなといっしょに給食の代わりに食べるのは、母親が給食そっくりな見た目に作った手作り弁当。
正直このシーンを見ただけで涙が出てきてしまいました。(お母さんすごい)
一見、まったく入っていなさそうに見えても、実際には何らかの形で入っている卵。
シュンくんから見ると、まわりは毒物だらけなのかもしれません。
アレルギーって本当に恐ろしい。
アレルギー以外ではいたって元気
ダンスをしている母親の影響か、シュンくんは運動神経がとてもいいです。
逆上がりもスイスイできるし、反復横跳びもクラスメイトよりも早く多く跳べる。
そして野球もうまい。
重度の卵アレルギーを持っていることなんて、とても想像できないくらい元気いっぱいの少年なんです。
母親は大阪出身の大阪弁、そしてダンサー
シュンくん一家が住んでいるのは東京・府中市。
しかし、母親は大阪出身、コテコテの大阪弁。
キャストが尾野真千子ということもあって、関西在住の私も納得のクオリティ。
いつもエネルギッシュなお母さんは昼間はダンススクールで働いています。
だからシュンくんの運動神経もいいんでしょうか。
クッキーを口にしようとする恐怖
重度の卵アレルギーを持つシュンくんは、ある日母親のダンスオーディションに一緒についていきます。
シュンくんは、オーディションでお母さんがダンスしているのを見守る中、そばにおいてあったクッキーに手を伸ばし食べようとします。
オーディションでダンス中の母親でしたが、シュンくんのことは常に見ています。
すぐさま飛び出してシュンくんからクッキーをはねのけます。
「アホ!死にたいんか!」
ただクッキーを食べる、というなんでもない行為がこんなに恐ろしく見えるとは。
たとえ大切なダンスオーディション中であっても、シュンくんから目が離せないお母さん。
これまでの大変さがヒシヒシと伝わる緊迫のシーンでした。
卵に描いたサムライ
母親不在中に、母親の卵黄入アイスを口にしてしまったシュンくんは、電話を受けてかけつけた母親と一緒に救急車で病院へと搬送されます。
病院のベッドで目を覚ましたシュンくんはいつか卵アレルギーを直したいと決意。
母親も「いつか卵食べたり!」と励まします。
退院したシュンくんは学校の鶏小屋にある卵を見て、思わず叩きつけようとしますが、ぐっと我慢。
マジックで卵にサムライを描き、卵アレルギーを克服する決意を新たにします。
なるほど、それがサムライエッグなんですね。
定期的に学校で視聴させたらいいと思う
「サムライエッグ」はアレルギーのことをあまりよく知らない(私も知らなかった)人に、もっとアレルギーのことを知ってもらうための作品として、ちょうどいいんじゃないでしょうか。
時間も15分と短いですし、学校で定期的に視聴させる、というのもありかな~と思います。
「サムライエッグ」いい作品でした。
【3本目】透明人間
「ちいさな英雄」の最後を飾るのは、私がいちばん気になっていた「透明人間」。
監督は山下明彦。
初監督作品は「ちゅうずもう」という民話をモチーフにした短編のようですが、私は視聴したことがありません。(三鷹の森ジブリ美術館で2010年公開)
どこか海外作品のような雰囲気を持つ作風なのかと思いきや、その内容は紛れもなく「ああ日本だな」と思わせるものでした。
個人的にはとてもツボにハマるものがあり、できればもう少し長めの作品としてまた作って欲しいな~と感じました。
主人公のことがよくわからん
「透明人間」の主人公は眼鏡をかけた透明人間。
青年のようです。
そんな透明人間の彼に対する説明は、作中では一切ありません。
- なぜダンベル(重り)を持っていたの?
- なぜ出かけるときに消化器を持っていくの?
- まわりは一切彼のことが見えないの?
- ATMも使えないなんて、どうやって暮らしてきたの?
- 自分で自分のことは見えてるの?
などなど、映画を見ている私の頭の中では、「透明人間」が始まってから、「疑問」がぐるぐると渦巻きます。
勤務先では誰も彼にきづかない
透明人間の彼は消化器を背負いながら、スクーターに乗って会社へと通勤します。
どうやら自動車ディーラーに勤務しているようです。
しかし、同僚は誰一人彼に気づくひとはいません。
落とし物をした女性社員のペンを拾ってあげても、女性は彼には全く気付かず、「こんなところに」とまるで彼が存在しないかのようにペンを手に取ります。
「いじめ」ではないようだけど、本当に彼のことが目に見えていないのかな?という疑問がわきます。
透明人間が身につけたものはまわりからは見えない?
透明人間といっても、他の人と同じようにちゃんと服を着たり、靴を履いたりしています。
「服は見えるんじゃないの?」と最初は思っていたのですが、まわりは誰も彼に気付かないので、ひょっとしたら彼が身につけているものは、まわりからは見えなくなってしまうのかもしれませんね。
もしくは認識が極端に薄くなってしまうとか。
だから彼が女性社員に渡したペンも最初は全然気付かれてませんでしたし。(でも宙に浮いてると思うんだけど)
コンビニの自動ドアが開かない、ATMの出金もできない
通勤帰りの途中でスクーターの調子が悪くなってしまい、お金をおろそうとコンビニに立ち寄る透明人間。
しかし、コンビニに入ろうとするも自動ドアが認識せず入れない。
他の人と一緒になんとか入り、ATMで出金しようとするも、ATMが認識してくれない。
お腹が空いた彼は、手持ちの小銭で菓子パンを買おうとレジに持っていくも、店員のおばちゃんは彼には全く気付かない。
いったい今までどうやって暮らしてきたのだろうか?
消化器を手放すと大変なことに
コンビニでの買い物をあきらめた彼は、大雨と強風の中の外に出ますが、ふとした拍子に彼は消化器を手放してしまいます。
すると、彼の体は空に吸い込まれていくように浮かび上がります。
なるほど、消化器や家の中のダンベルは、彼が浮かび上がらないようにするための重しだったんですね。
なんとかピンチを脱出、そして盲目の男
このままではどこまでも空に舞い上がってしまう彼は、バルーン広告になんとかすがりつき、その後は工事現場のツルハシを持ってバランスを取ることで、なんとかピンチを脱出。
ツルハシにすがりつきながら、川辺に座って途方に暮れる彼のもとに、盲導犬とともに近づいてきた盲目の男。
盲導犬もそうですが、盲目の男は透明人間である彼の存在を認識できるようです。
盲目の男は菓子パンを差し出し、ある言葉を彼にかけるのですが、彼がどう受け取ったのかは、透明なのでやっぱりよくわかりません。
スクーターで疾走!
もらった菓子パンを食べ終わった彼は、なぜか遠くの山の斜面を見つめます。
私も見つめましたが、よくわかりませんでした。
どうやら何かが起きようとしているみたいです。
スクーターに乗った彼は、前を走る大型トラックを追いかけるように疾走します。
「透明人間」の中で一番迫力のあるシーンですね。
見つけたのはベビーカー
消化器も落としてしまい、宙を飛びながら疾走する彼が見つけたものは、山の斜面を転がる一台のベビーカー。
すげえ目がいいのな。
このままでは海に転落してしまう。
彼は決死のダイブでその転がり落ちるベビーカーにくらいつきます。
彼はその後どうなったのか
必死の思いで飛びついた彼の腕の中からは、赤ちゃんの泣き声が。
どうやら無事に助けることができたようです。
しかし一向に泣き止むことがない赤ちゃんに彼がとった行動。
それは「いないいなばぁ」。
「やっぱりか!」というお決まりの方法ですね。
それにしても透明人間の彼が「いないいないばぁ」をしても効果あるのかな?
と思いながら見ていたのですが、透明人間の彼がすると、つねに「いない」状態が続きます。
しかしそんな彼を見た赤ん坊は泣き顔から一転、眩しい笑顔と笑い声を見せてくれます。
彼にとっては灰色だった世界に、色がつくような光が差し込んだ瞬間だったかもしれません。
その後、スクーターで走る彼の姿は、本当に透明人間なのかどうか、見ていてもわかりませんでした。
いい余韻が残る締めくくり方だったと思います。
まとめ
ポノック短編劇場「ちいさな英雄ーカニとタマゴと透明人間ー」を鑑賞した感想について書きましたが、いかがだったでしょうか?
3本の短編オムニバスで形成された今回の「ちいさな英雄」ですが、正直なところ劇場公開するほどのクオリティーとボリュームにまで仕上がっているものとは私にはとても思えませんでした。
「3本×15分」はさすがに物足りなかったわ。
個人的には地上波のスペシャル番組や、WEBでの動画配信してくれたほうがありがたかった。
たいていの作品だったら劇場まで足を運んで鑑賞したあとは「観たな~!」という達成感にひたれるものなのですが、今回に限ってはその達成感もありませんでした。
おそらく今回の作品で一番手間暇がかかっているのは「カニーニとカニーノ」だったと思うのですが、正直いちばんつまんなかったです。(好きな人ゴメンナサイ)
もし地上波で放送したのを録画しても、「カニーニとカニーノ」は早送りで飛ばすでしょうね。
今回は実験的な作品という位置づけであるということと、時間も短かったことから料金も低めの設定をされていましたが、それでも「高い」と言わざるを得ないでしょう。
久しぶりに劇場に足を運んで「後悔」しました。
というわけで「ちいさな英雄ーカニとタマゴと透明人間ー」については、
しかし、もしも次また同じような企画の作品が上映されたら、また観に行ってしまうんだろうな~。
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